アレルギーについて

乳児期のアレルギー

(2008/09/05)

 この文章は、2006年9月、秋田の主婦のための情報交換(ワイヤーママ)の掲示板で食物アレルギーやペプチドミルクが話題になった際、医師の立場で当時寄稿したものです。
 乳児期のアレルギーに対して情報が沢山あって混乱しているようです。すべてが解明されているわけではありませんが、現在の常識的な考えについて、一部私見を交えて述べますので参考にしてください。 外界からの異物(抗原)に対して生体がいい反応を示した場合は免疫反応といい、よくない反応を呈した場合をアレルギー反応といいます。多くのアレルギー疾患がありますが、小児、特に乳児で問題になる病気は、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎です。それぞれについて説明します。

食物アレルギー:
乳児での頻度は5~10%で、その多くはアトピー性皮膚炎を合併しています。IgE抗体検査(通常行なわれているアレルギー検査)陽性であることと食物アレルギー症状が出現することとは必ずしも一致しません。また原因食物を摂取してから症状出現までの時間によって,即時型(2時間以内、多くは30分以内)、非即時型(数時間~数日)に分類しますが、多くは即時型です。原因食物は卵、乳製品、小麦の順です(特に卵)。しかし、その後成長とともに80~90%は摂取しても症状が出なくなります(このことを耐性を獲得したといいます)。事実、小学生では食物アレルギーの頻度は1.3%に減少します。卵は最も頻度の多い食物ですが、一口に卵アレルギーといっても程度に違いがありす。

抗原性の強い順に、
1)生卵、マヨネーズ。
2)十分加熱した卵焼き、オムレツ、茶碗蒸し。
3)卵を使った菓子(アイスクリーム、ケーキ、プリン、シュークリームなど)。
4)卵を使った菓子や食品(ビスケット、食パンなど)。
卵は十分加熱することによって抗原性は非常に低くなります。経験上、上記のすべての卵製品にアレルギー症状を呈する乳児はごく一部です。また乳製品、特にミルクアレルギーは乳児期早期に症状を呈することが多いです。

 症状は、発疹、蕁麻疹などの皮膚症状や嘔吐、下痢などの消化器症状が多いのですが、まれに呼吸困難、顔色不良など全身症状を呈する例もあります。母乳には感染予防に必要な免疫グロブリンが含まれており、またアレルギー予防の意味でも最適です。それでは人工乳(ミルク)はどうでしょうか。現在のミルクは組成上限りなく母乳成分に近くなっています(もちろん免疫グロブリンは含まれていませんが)。母乳栄養が最適ではありますが、母乳が不足であったり保育所に通うためミルクも必要な場合は、普通のミルクで問題ないと思います。予めミルクアレルギーがあるかを知る手段はありませんが、心配なあまりアレルギー用ミルク、またはアレルギー予防用ミルクを選択する必要はないと思います。どんな場合に必要かは後で述べます。

アトピー性皮膚炎:
アトピー性皮膚炎は「良くなったり悪くなったりを繰り返す、痒みのある湿疹病変で、多くはアレルギー的な素因を持つ」と定義されています。乳児のアトピー性皮膚炎はおよそ10%の頻度といわれています。皮膚病変は頭や顔から始まり、次第に手足や体幹に広がっていき、2カ月以上に渡って症状があり痒がるかどうかがポイントです。それでは乳児のアトピー性皮膚炎のうち食物アレルギーが関係している頻度はどれくらいでしょうか。100%近いという医師や、たかだか数%という医師がおり、このことが誤解を生み、アレルギー商品の売りにも利用されます。「アトピー性皮膚炎は乳児では食物も増悪因子として重要ですが、その頻度はおよそ20~30%程度で、通常の外用治療などで良くならない重症な例に多い」との考えが一般的です。また先に述べたIgE抗体検査は即時型反応には有効ですが、アトピー性皮膚炎の増悪因子であるかどうか(非即時型反応)では慎重に判断する必要があります。そのためにはIgE抗体検査で、ある程度原因になる可能性のある食物を絞り込んだ上で、その食物を除去(通常2週間)することによってアトピー性皮膚炎の症状がよくなるか、その後その食物を摂取することによってアトピー性皮膚炎が悪くなるかを観察して関係があるかどうかを判定しなければなりません。アトピー性皮膚炎=食物アレルギー=アレルギー検査(IgE抗体検査)ではないことを理解してください。

 以上述べたようにIgE抗体検査は万能ではありません。競馬の予想で、本命、対抗、穴などの言い方があります。IgE抗体検査によってより可能性の高い食物を予想する、競馬新聞にたとえた人がいましたが、正に言いえているかもしれません。それなりの意味、価値はありますがすべてではないのです。最終的には、症状、IgE抗体検査、皮膚テスト(プリックテスト、スクラッチテストなど)、除去負荷試験などを組み合わせて総合的に診断します。そして原因食物については、どの程度の制限が必要なのか具体的に指導しなければいけません。検査をしました、卵が陽性でした、食べないでください、これでは全く無責任な対応です。

 アレルギー疾患は年々増えています。特に花粉症は30%もの人が悩んでいるといわれるほど国民的な病気です。また遺伝的な傾向があることも確かです。平成11年に秋田県で行なった「秋田県小児アレルギー疾患実態調査」では、両親共にアレルギー疾患歴がある場合、子どもの罹患率は両親ともにアレルギー疾患歴がない場合の約2.1~3.4倍、片方の親だけにアレルギー疾患歴がある場合でも1.6~2.6倍と推定されています。

 それでは予防する手立てはあるでしょうか。M社ペプチドミルク(E赤ちゃんなど)は有効でしょうか。ミルクアレルギーは分子量の大きい蛋白が原因で起こります。その蛋白成分を加水分解して小さな分子量にしたものがアレルギー用ミルクです(分子量は通常1000以下)。価格は高くなり味は悪くなります。ペプチドミルクは酵素分解して分子量を3500以下にし、アレルギーを起こし難くしたものです(ミルクアレルギー治療用には使えません)。価格、味は、アレルギー用ミルクと普通のミルクの中間でしょうか。発売から10年が経ち、M社の栄養士は産院や乳児健診での栄養指導で、身内にアレルギー疾患のある人がいれば「アレルギーの予防のためにE赤ちゃん」とさかんに勧めます。先に述べたように花粉症などアレルギーは年々増加しています。ペプチドミルクで将来のアレルギーが予防できる、またはできたという証拠は今のところありません。もし飲むとすれば、兄姉にミルクアレルギーや乳児期にひどいアトピー性皮膚炎があった場合にはいいかもしれませんが、それ以外では不要と考えます。もちろんペプチドミルクは栄養的には問題なく、味もそこそこなので飲んでも構いませんが。当院では積極的に勧めた例はほとんどありません。アレルギーを妊娠中から、または生まれた直後から確実に予知したり予防することは難しいのですが、できるだけ母乳で育てること、母親は妊娠、授乳中は偏食のないバランスの良い食事を摂ること、家族内のタバコは厳禁です。妊娠中に牛乳の代わりに、「Eお母さん」で生まれてくる子どものアレルギーを予防しましょうと勧められるかもしれませんが、「E赤ちゃん」以上にその効果については証明されていません。無理なくできることに努め、乳児期にアレルギーを疑わせる症状が出現したら早めに診てもらい、食物アレルギーの関与も含めしっかり診療してもらうことが重要と思います。

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